直木賞作家の佐藤愛子女史の言葉から、
人生の黄昏時の処し方を学びたい。
人生の総仕上げ
〔人生の総仕上げ〕
人間すべて老いれば
孤独寂寥に耐えねば
ならないのである。
それをしっかり耐えることが
人生の総仕上げなのだ。
「女の怒り方」(エッセイ)
あるがままに受け容れよう
〔あるがままに受け容れよう〕
どんなふうに死にたいか、
と私は時々自分に訊ねる。
殆どの人が願うように
私もやはり「ポックリ」
死ぬことが理想である。
しかしそんな幸福な人は
ごく少数の選ばれた
人たちであろうから、
私はやがて訪れる私の死を
何とか上手に
受け容れたいと考える。
上手に受け容れるということは、
出来るだけ抵抗せず自然体で
受け容れたいということだ。
そのために私は、
(昔の人がしたように)
死と親しんでおかなければ
ならないと思う。
死を拒否しようと
努力するのでなく、
馴染んでおきたいと思う。
少しずつ
死に近づいていよう。
無理な健康法はするまい。
不自然な長命は願わない。
余剰エネルギーの始末に
苦しまなくてもいいように、
身体に鞭打って
働きつづけよう。
「人間の自然」を
見詰めよう。
死は苦しいものかも
しれないが、
それが人間の
自然であれば、
あるがままに
受け容れよう。
ボケ老人になることも、
人の自然であれば、
それを受け容れよう。
ボケることによって、
死の恐怖を忘れ、
種々の妄念から
開放されて
死んでいく。
あるいは老いて
ボケることは、
神の慈悲というものかも
しれないのである。
ならば遠慮なくその慈悲を
受け容れよう。
「こんな風に死にたい」(エッセイ)
女のたしなみ
〔女のたしなみ〕
自分が今、
女としての、
どのへんの位置に
存在しているか、
それを正しく
認識するのが
女のたしなみ
というものであろう。
若すぎてもいけないし、
老けすぎてもいけない。
「こんな生き方もある」(エッセイ)
面魂
〔面魂〕
私の波乱多い生きざま、
苦難との闘い、
撃ちてしやまんの気魄、
真理を洞察せんとする眼力、
そういうものが私の面魂を
養ったのでありましよう。
女として大切なことは
何かというと、
美人であるとか
チャーミングだなどと
いわれて
男どもに
もてはやされる
ことではない。
そんなものは、
生れつき与えられた
瑣末事に過ぎんのです。
己れの力で
創り上げるものこそ
大事なのである。
即ち面魂こそ、
それです!
「女の怒り方」(エッセイ)